しなやかということ №47

平成22年5月17日

しなやかということ

     (なつ)(あらし)机上の白紙飛び尽す    正岡子規

ちょうど今頃の季節に吹く風を薫風(くんぷう)といいますね。しかしこの風、「風薫る」どころか、時に台風並みの強風になることが珍しくありません。子規の句のように「夏嵐」と言われたり、「青嵐」(あおあらし・せいらん)と呼ばれたりしますが、ともに季語になっていますからこの風は日本ではいまの季節を現わす風なのでしょう。

いつでしたか。まだ学校に勤めていた頃ですからずっと以前のことです。ちょうど今頃、職員室からふと窓外に眼をやると、この夏嵐が吹き荒れて校庭の木々を激しく揺らしているのでした。大きな葉はまるでおちょこになった傘のように風に翻弄されているのです。晴れていながらまさに台風というべき様子でした。

しかし、私が驚いたのはその風が止んでからのことです。枝葉を風に激しく翻弄された木を見に行くと、何と地面には一枚の葉も落ちていなかったのです。台風並みの強風にさらされながら木々の若葉は一枚も風に負けることがなかったのでした。若葉のしなやかさとはこういうことか。私は深い感銘を覚えました。

しなやか、ということは柔軟性を持っているということです。その柔軟性は若さの象徴かも知れません。激しい風に耐えることが出来たのは若葉だったからです。若葉だったから風に逆らわずに身を守ることができたのでしょう。「柳に雪折れなし」という諺がありますが柳も雪の重さに逆らわずにしなることによって自らを守ることが出来るのです。

 改めて思います。私たちも子供のころは心身共にしなやかであったはずです。環境や周囲の人に対して柔軟に接する力を持っていたはずです。しかし、時とともに私たちは体の柔軟性も心の柔軟性も失ってしまうのですね。あぁ、もう一度しなやかさを取り戻したい。みなさんもそう思われませんか。

 


   英語では 
   Oaks may fall when reeds brave the storm
      (葦が嵐に耐える時樫が倒れる)
             って言うんだって。