平安を下さい② №100

平成23年7月17日

平安を下さい②

 この7月10日の毎日新聞に「南相馬市93歳女性“墓に避難”」という報道がありました。原発避難で家族一緒に暮らすことが出来なくなった93歳になる女性が「毎日原発のことばかりでいきたここちしません。こうするよりしかたありません。さようなら。私はお墓にひなんします。ごめんなさい」という遺書を残して自殺したというのです。

記事には葬儀を行った市内岩屋寺、星見全英さんの「避難先で朝目覚め天井が違うだけで落ち込む人もいる。高齢者にとって避難がどれほどつらいか」という言葉が添えられていましたが、家族仲良く平安な暮らしをしていたお年寄りを原発事故がここまで追い詰めてしまった痛ましさに胸つぶれる思いを禁じ得ません。

しかし、被災者が心身共に追い詰められていく危険性はむしろこれからの方が高いのではないでしょうか。前号で報告した釜石の仮設住宅でも既に自殺した方があると聞きました。若い人でさえ先行きを思えば不安と絶望に(さいな)まされるのですからお年寄りにとっては一層です。働くことも叶わず収入も貯金も帰る家さえもない人が悲観的にならない筈がありません。

その上、災害の大きさに無我夢中であった時を過ぎれば亡くなった人々を思う悲しみが深まります。それと同時にPTSD(心的外傷後ストレス障害)の問題があります。死の危機に直面した人がかかる幻覚や精神的不安定です。阪神淡路震災の時もそうでしたが、これは小さな子供達にとってはより深刻な問題です。また、自分だけが生き残ってしまったという罪悪感に悩まされることも大災害に共通する問題なのです。

今回の私の被災地訪問では深刻なケースには遭いませんでしたが、それは深刻な人がいないということではありません。遭わなかっただけのことでしょう。冒頭に記したような悲痛な事件をなくすにはまず、被災者が孤立化しないためのつながり、共同体をつくらねばなりません。自分は一人ではないと思えれば孤立化は回避できるのです。
 
 曹洞宗山口県宗務所は被災者の心のケアを第一にこれまで既に10回、現地で「ほっと一息喫茶店」活動をしていますが、何分にも多くの費用と人手を要することでありますので、どうぞ皆さま被災の方々の心と生活の平安をとり戻すために今後とも暖かいご支援ご協力をお願い申し上げます。