この一年 №355

 この一年
平成27年12月31日

 今年は「戦後70年」という年でした。八月十五日、終戦の日に至るまで新聞、ラジオ、テレビで戦後70年を記念する沢山の特集記事や番組がありました。その多くは先の戦争をどう考えるか、戦争の記憶をどう伝えていくかということであったと思います。しかし、私たちは今年、戦争の反省とこれからの平和への決意が十分に出来たでしょうか。
 
 私の感想を申し上げれば、残念ながら今年戦後70年は、戦争の反省、平和への決意とは反対の年になったと思います。そう思う最大の理由は集団的自衛権の行使を意図する安保法案です。安保法案は多くの憲法学者がその違憲を指摘した通り、憲法第九条を蹂躙するものですが、その安保法案が多くの人の反対を無視して強行可決されたのでした。

 法案提出側の言い分は中国や北朝鮮を意識した“状況の変化への対応”でした。しかし、これは決定的に誤っています。状況の変化に武力で対応することは軍拡競争にしかなりません。一度その罠に落ちたら際限のない悪循環しかないのです。それを止め、武力による紛争解決に決別することを決意したのが憲法第九条なのに、です。

 日本が集団的自衛権をかざして戦争当事国のどちらかに加担すれば、そこで日本の勝手な言い分など通用する筈はありません。相手国から攻撃をされることは当たり前です。そして一旦戦争になれば国会の歯止めも何もありません。“状況への対応”で戦争が益々拡大していくことになります。集団的自衛権というのは戦争と同義語ではないでしょうか。

 今年、平和をめぐって私が唯一感銘を受けたのは終戦の日の天皇陛下のお言葉でした。陛下は戦没者追悼式で「さきの大戦に対する深い反省と共に、今後、戦争の惨禍が再び繰り返されぬことを切に願い、全国民と共に、戦陣に散り戦禍に倒れた人々に対し心からなる追悼の意を表し世界の平和と我が国の一層の発展を祈ります」と言われました。

 この陛下のお言葉こそが憲法第九条の掲げる精神に他なりません。私は陛下のお言葉を私たち国民の戦後70年の決意にしなければならないと思います。戦争の悲惨を心に刻み、ゆるぎない平和への決意を新たにしなければなりません。この一年の終わりに私が痛切に思うのはそのことです。
 

     国権の発動たる戦争と、
     武力による威嚇又は武力の行使は(中略)
     永久にこれを放棄する。      
              ~憲法第九条~