日々是好日 №26

平成21年10月17日  

日々是好日


 先日お遍路の下見に行ったときのことです。よりによって予定した日のお天気が芳しくありません。その数日前から予報は雨。しかもまとまった雨量というのです。しかし、日をずらす余裕もなく当日は予報通りの雨になりましたが、朝早く徳島に向けて出発しました。新幹線の車中も岡山からの高速バスもずっと雨の中でした。

鳴門でバスを降り、レンタサイクルを借りて第一番札所霊山寺に向かったのはもう昼過ぎでした。しかし、走り始めると行く手の西の空は明るく雨も上がりそうな気配です。「やっぱり自分は晴れ男」と気分よく霊山寺にお詣りし、二番、三番、四番と快調に進みましたが晴れ男もそこまででした。小止みだった雨が再び大粒になりやがて本降り。札所を行くほど雨と汗で濡れ鼠になると「何で今日に限って雨が降るんだ」と愚痴が頭をよぎります。

雨は一向に止みません。もう手や顔は勿論、靴下までぐっしょりです。でも不思議なものです。七番、八番と行くうちお天気を恨む愚痴は消えて雨の中を走る爽快さを感じ始めたのです。道野辺に鮮やかに咲いている真っ赤なケイトウが眼にはいると思わず「きれいーっ」と声を上げ、群がって咲くコスモスの笑顔にこちらも顔がほころんでしまいます。雨もまた楽し。予定の十一番まで私は雨の中を楽しく走ったのでした。

考えてみれば晴れがいい、雨がいいというのは人間の勝手な思いです。晴れがいい人もいれば雨がいいという人もいます。でも一年365日、十年3650日。雨の日も晴れの日も雪の日も風の日もあります。しかし、人間の勝手な思いを離れればすべて是好日です。晴れがいい雨がいい、という勝手な思いを離れたとき「日々是好日」なのです。雨の一日を終えて宿に着いたとき、私はその一日が御大師様の贈り物のようにも思えました。雨の日のお遍路の味わいを初めて体験したように思えたからです。

 御大師様といえば今回私はもう一つ有難いお助けを頂きました。というのはレンタサイクルの方がお店と高速バス停の間を送りお迎えして下さったのです。そのお蔭でどんなに時間節約になったか分かりません。たった一人のためにそれこそ採算度外視で送り迎えをして下さったことに私はお店のご主人の有難さと同時に御大師様のご援助を思わずにはいられませんでした。同行二人。お遍路の日々もまた日々是好日です。

雨降れば雨に濡れ風吹けば風に吹かれる    洋仙