不 憫 №596

 不 憫

令和2年7月18日

 胸つぶれるような痛ましい事件がまた起きました。3歳の女の子、(かけはし) 稀華(のあ)ちゃんが母親の育児放棄で死亡しました。母親は先月5日から13日までの8日間、稀華ちゃんを一人家に残して外出し脱水と飢餓で衰弱死させたのです。稀華ちゃんの胃には何もなかったと言います。あまりのむごさ不憫さに言葉がありません。

 この痛ましい事件を「また」と言いましたのは昨年ちょうど今頃全く同じような事件があったからです。ご記憶の方もお出ででしょう。211か月の女児、土屋陽璃(ひなた)ちゃんが同じように母親の育児放棄で亡くなったのです。陽璃ちゃんの胃の中も空で室内や冷蔵庫には食べ物は何もなかったと言います。

 なぜこんな痛ましくむごい事件が続いて起こるのでしょうか。二人の母親は子供を置いて出た後二人とも男友達と過ごしていたと言いますが、その二人は共通して「育児に疲れてリラックスしたかった」「子どもが死ぬとは思わなかった」と言っています。育児が大変なのは当然でしょうが23歳の子どもを放置したらどうなるか思わなかったのでしょうか。

 二つの事例を考えると、そこに二人の母親の個人的問題と同時に現代日本社会の暗部を思わざるを得ません。上の二つの事件は明治まで続いた村社会の中では起きなかったことだと思うのです。封建的村社会がよかったとは思いません。しかし、母親の育児放棄で子どもが死ぬということは村社会では起きなかったと思うのです。

 村社会の息苦しさを思えばそれを再びとは思いません。ただ村社会は人とのつながり持っていました。いまよく言われる共助社会、地域共同体でありました。子どもは地域の中の子どもとして見守られていました。その社会では母親が育児放棄していなくなってしまうなどということはあり得なかったはずです。

 日本はいま今回の事件を社会の問題として捉えなければなりません。今回のような事件が二度と起きないようまず近所同士がつながりを深めなければなりません。公的には特にシングルマザーに対する生活支援や心的支援を充実させなければなりません。痛ましい事件が再び起きないよう公助共助を強めなければならないと思います。


  瓜食めば子ども思ほゆ 

 栗食めばまして偲はゆ

 いづくより来たりしものぞ

 まなかひにもとなかかりて

 安眠しなさぬ

ままならぬ人生 №595

 ままならぬ人生

令和2年7月17日

 週刊現代(627日号)に「ままならないのが人生」という特集記事がありました。「人生には仕方ないことがある」「人は与えられた運命を生きている」「思い通りにならないことを楽しむ」「何があっても感謝、いいことは後からくる」など幾つかについて有名人が自分のこれまでを振り返っていて大変興味深い記事でした。そのうちの二つをご紹介しましょう。

 その一。ミスタータイガースと呼ばれた田淵幸一さんは選手生活の初めから予想外のことばかりだったそうです。まず確実視されていたドラフト会議での巨人指名が阪神と知って巨人に行くことだけを考えていた田淵さんは19日間悩んだと言います。それを吹っ切ることができたのは恩師の「野球はどの球団でも変わらない。十年頑張れ」という言葉だったそうです。

 しかし、入団二年目には左こめかみにデッドボールを受けて命の危機に瀕し、その後も腎臓炎や膝の故障など次々に困難に逢いますが、その時思ったのが「人生は予期しないことばかり。その時いる場所でできることをやるしかない」ということだったそうです。「人生後ろ向きになってはダメ」というのが今の思いということです。

 その二。落語家の柳家三壽さんは12年前、62歳の時に前立腺がんを宣告されたそうです。でもその時、三壽さんはガンを敵とみなして撲滅しようとする考えに違和感を覚えて、以来これまで手術や治療を一切受けずに生きてきたと言います。ガンに立ち向かうのではなくガンと折り合いをつけて行く道を選んだのだそうです。

 ガンと折り合いをつけるというのはたとえるなら家主と居候のような関係。居候に家を乗っ取られないように大人しくしてもらって生きるというのです。三壽さんはいま「自然の流れに身を任せていると案外楽しく幸せに生きられる」と思っているそうですが、これを「一病息災」というのでしょうか。達観と言うべきと思います。

 今回はお二人しかご紹介できませんでしたが人生途中に遭遇したケガや病気や事故にどう向き合ったかでその後の人生が変わったという話は大変興味深いものがありますからまた機会があったらご紹介したいと思います。誰もがぶつかる人生の「まさか」。そこにこそその人の人生があるのかも知れません.

 

 長い人生にはなあ どんなに避けようとしても

 どうしても通らなければならぬ道――てものがあるんだな 

                      <みつを>