嘘は罪 №97

平成23年6月24日

嘘は罪

 Aさんは自衛官として長く航空管制業務に携わってこられた方です。航空管制といえば緊急事態発生の時沈着冷静な判断を求められる大変な仕事です。ですから、その業務に当たる人はどんな状況にも対応できる能力を必要とされるでありましょう。非常事態に遭遇した航空機を救えるか否かは管制官の適確な誘導に懸かっているのですから。
 
 そんな思いもあって、ある時Aさんに「航空管制官の第一要件は何ですか」と尋ねたことがありました。私にはその要件は冷静な判断力ではないかという先入観がありました。ところが、Aさんは意外にも「嘘をつかないこと。素直なこと」と言われたのです。その言葉に思わず私は「えっ、そうなんですか」と聞き返したほどでした。

 Aさんがおっしゃるには、管制業務で最も大切なことは事実をありのまま伝えることなのだそうです。たとえ自分に不都合なことであっても嘘をつかず正直に伝えることが管制官としての第一の要件だというのです。不都合なことは隠そうとしたり嘘をついたりしてきたという思いの前で、私はこの話に深い感銘を受けました。

 この話を私が何故思い出したかと言いますのは、今回の福島原発事故では当事者も政府も私たち国民に偽りなく事実を伝えてきたか疑問に思うからです。先達ての原子炉内部への注水の中断か継続かがそうでしたし、今朝(24日)の新聞では成功したとされる原発1号機のベント(排気)が実際には失敗した可能性が高いことが伝えられています。
 
 放射線量の値もそうです。上げればあれもこれも事実とは異なった情報が流され、そのために被害を拡大させてしまったのではないかという疑念を拭えません。表題の「嘘は罪」は往年パットブーンが歌った切ない恋の歌でしたが、いま私は怒りと嘆きを込めてこの言葉を事故の当事者達に発したい思いです。いま、この国とこの国の民を救うのは事故の真実の解放とその真実に立ち向かう勇気しかないのです。
 

その時 自分ならば どうする
           相田みつを