花は無心 №46

平成22年5月6日

花は無心

     人知らぬ / 荒れ地に咲いた / ひなげしよ
     
     その健気(けなげ)さよ / その気高さよ
 
 ずっと昔、まだ二十代だった頃、アフガニスタンを旅したことがありました。今は破壊されてしまったバーミヤンの石仏を見に行ったのです。皓々たる満月の下で見た巨大な石仏の感動は今でも忘れることができませんが、アフガニスタンでもう一つ感慨深く忘れられないことがありました。それが「ひなげし」なのです。
 
 アフガニスタンは乾燥した草原の国です。日本のようにどこに行っても緑豊かな山や森がある国ではありません。緑と言えば僅かにオアシスにポプラ等の木々があり、灌漑用水に頼る畑がありますが、そのオアシスをちょっと離れればまさに荒涼たるという言葉通りの不毛の荒地が広がっているのです。
 
 おまけに世界に名だたるヒンドゥークシ山脈を擁する高地の国ですから鉄道はなく人々の移動は専らバスに頼るしかありません。長時間の移動は疲労困憊ですが、屋根の上まで荷物を満載したバスの旅で私がふと目にしたのが道野辺の荒地に咲いたひなげしの花でした。木も花も見ることのない荒地を行く旅ですから、その小さなひなげしの花にどんなに心癒されたか知れません。荒地に咲く花だからこそ思わず声をかけたくなるほどいとおしさを覚えずにはいられませんでした。
 
 花の中には豊かな大地に咲く花もあります。極北の地に咲く花も高山に咲く花もあります。そして荒地に咲く花もあります。しかし、どこに咲こうと花は無心です。人に褒められることも喜ばれることも思いません。ただ自分の命を懸命に生きているだけです。しかし、それがどんなに貴いことか。春、空き地の片隅で咲いていたひなげしに出会って改めて花の健気さ、そして気高さを思い起こしました。



   あれを見よ 深山の桜咲きにけり
  誠を尽くせ 人知らずとも

0 件のコメント:

コメントを投稿