人生を遊ぶ №48

平成22年6月17日

人生を遊ぶ

 山仕事仲間に正美さんという人がいました。姓は高橋でしたが同じ仲間に同姓の人がいたこともあって自然に名前で呼ばれるようになっていたのです。年齢は私よりみっつ四つ上だったと思いますが、無類のお人好しで舌足らずのような話し方が親しみを感じさせ、そのことが一層名前で呼ぶことをふさわしくしているのでした。
 
 正美さんはペンキ屋さんでした。しかし、仕事が少なかったのか余りする気がなかったのか、ボランティア同然の山仕事の方が熱心で月二回ほどの仕事日は毎回参加を怠りませんでした。そして、その度に人数分のゆで卵を持参してくれました。午前の作業が済んで昼になるとそのゆで卵を一人ひとりに配ってくれるのです。何年ものことになれば私たちは毎回当然のように頂いておりました。

 山仕事が好きなだけあって正美さんは自然の中で遊ぶことが得意でした。山仕事の時も昼休みちょっと森に入ったと思うと、抱えるほどのキクラゲやネマガリダケの筍を採ってきてみんなをびっくりさせるのでした。それはもちろん正美さんが季節の自然を熟知していたからにほかなりません。そういえばイルカが好きで毎年冬近く魚屋にイルカが出回ると真っ先に買い求めて味噌炊きにして食べるということでした。五感で味わう季節の楽しみをよく知っているのでした。

 その正美さんが亡くなってもう数年になりますが、いま思うと正美さんは「人生を遊んだ」という気がします。正美さんと仏教の話をした記憶はありませんが、生きるということは素直に「人生を遊ぶ」ことではないかと思います。その「遊び」には嬉しいこと楽しいことばかりでなく辛いこと悲しいこともありますが、正美さんはそれらをひっくるめて人生を遊んだに違いありません。決して長命ではありませんでしたが、きっと満足の一生であったと思います。人一倍人生を遊んだのですから。



    この命なにを齷齪(あくせく)
        明日をのみ思ひわづらふ
            「千曲川旅情の歌」

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