「只今帰りましたーっ」 №56

平成22年9月7日 

「只今帰りましたーっ」


 これはIさんから聞いた話です。Iさんが育ったのは山の中と言ってもよい村だったそうです。そのためもあってでしょう。その村は一軒一軒が顔馴染みといってよく大人同士は無論、子どもたちまでどこそこの誰と分かっていたそうです。子どもたちも大人たちも地域に住む全員がお互いを知っている村であったそうです。

 そんな村に育ったIさんの小学校時代の習慣は学校からの帰り道、村に入って野良で働いている人を見るとすぐさま「只今帰りましたーっ」と大声で叫ぶことだったそうです。すると、それを聞いた野良の人が「お帰りー」と返事をしてくれるのだそうです。それがその村の日常であり、時に声が届かないことがあると子どもたちは何度も繰り返して叫んだというのでした。村全体が一つの大きな家族であったと言うべきでしょう。

 その話を聞いて私は思い出すことがありました。といっても最近のことです。長門の大寧寺の方丈様のお話を伺ったとき、方丈様は今の日本が失ったものは共同体だと言われたのです。共同体の再構築こそ今後寺がなすべき課題ではないかと言われたのです。私はこれに全く同感でした。戦後、私たち日本の社会が失ったものは共同体(意識)であり、その結果として今日の社会の不安と迷走が生じたのではないかと思うのです。

 共同体の最小のものは家族です。しかしこの五十年、特に都会では核家族化で三世代、四世代が共に暮らすことは少なくなりました。その上に個人化が進んで家族という強連結が薄れ家族といえない家族が出現することになりました。今話題になっている超高齢者の所在不明問題はすでに30年も前から日本にも家族の崩壊が起きていたことを示しています。
 
 Iさんが少女時代を過ごした「村落共同体」が絶対のものではありません。それは時には息苦しさを覚える社会でもあったでしょう。しかし、共同体を失って今分かったことはそれが如何に大切なものかと言うことだと思います。

 

  「ねぇママは
  一生あなたの応援団」
        ~大阪 前田智洋子
          (仲畑流万能川柳)~

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