「空が青いから白をえらんだのです」 №432


「空が青いから白をえらんだのです」
平成29年5月14日


詩人寮美千子さんが編まれた「空が青いから白をえらんだのです」という詩集があります。副題に「奈良少年刑務所詩集」とある通り、この詩集は奈良少年刑務所の情操教育の中で生まれた詩を纏めたものです。全部で57編の詩が収められていますが、そのどれもが読む者の心に深く突き刺さるものばかりです。

表題の詩は詩集の最初に載せられている「くも」という詩です。この詩の作者A君は普段あまりものを言わない子だったそうです。が、この詩を朗読したとたん、堰を切ったように「今年でお母さんの七回忌です。お母さんは病院で、つらいことがあったら空を見て。そこに私がいるからと言ってくれました」と語りだしたそうです。 

 A君のお父さんは体の弱いお母さんをいつも殴っていたそうです。でも小さかったA君は何もできず、入院していたお母さんの最後の言葉が上の言葉だったのだそうです。お父さんに殴られるお母さんに何もしてやれなかったA君、そして、そのA君を心配するお母さんを思うとその二人の切なさに涙がこぼれる思いがします。

 寮さんは言います。「無邪気に笑う。素直に喜ぶ。本気で怒る。苦しいと訴える。悲しみに涙する。いやだよと拒否する。助けてと声に出す。日常のなかにある、ごく当たり前のこと。そんな当たり前の感情を当たり前に出せない子どもたちがいます。感情が鬱屈し、爆発して時に不幸な犯罪を引き起こしてしまいます」と。でも、お母さんを思う気持ちは変わりありません。

 「おかあさん?」という詩があります。

「あ だれかくる/おんなのひとだ/だれかのおかあさんかな?/ 
もしかして・・ぼくのおかあさん?/きれいなひとだなぁ/ 
ぼくのおかあさんもきれいかな/しごとはなにをしているのかな/
 やさしくてふわふわなのかな/どんなこえかな/ぼくににてるのかな/ 
でも・・/どんなかおしてても/ふとってても/いじわるでも/ 
はたらいてなくても/ゴツゴツしていても/おとこみたいなこえでも/
 おかあさんは おかあさん/いちどでいいから/ 
かおをみせてよ おかあさん/だきしめてよ おかあさん/いちどでいいから/
 ぼくのなまえを よんでよ おかあさん/
 そしたら/ぼくから つたえたいことがあるんだ/「うんでくれて ありがとう」


     わたしが自分で あなたを親に選んで 生まれてきたんだよね
     おかあさん 産んでくれてありがとう 
                      <同上詩集> 


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