身体感覚 №490

身体感覚
平成30年6月7日

 前号「四情発散」で髙村薫さんが「失われた“身体性”」ということを言われていることをご紹介しましたが、何とその後、心療内科医・海原純子さんがやはり新聞に「身体感覚」と題する一文(毎日新聞H30.5.13)を寄せられていることを知りました。海原さんが言われていることも髙村さんが言われていることそのものなのです。

 海原さんはある理系の国立大学を卒業した若者と話していて驚いたことがあったそうです。その若者、食事はタンパク質、炭水化物、食物繊維、ビタミン等という栄養バランスだけを考えてメニューを選ぶと言い、食べたいものなどを思い浮かべることは全然なく、まして自分で食事を作ったり食材を選んだりすることは全くない、というのだそうです。

 確かに食事を作るどころか食べたいと思うものもないと聞けばびっくりですが、海原さんは「自分が何を食べたいか、言い換えれば、自分の身体が何を必要としているかという身体感覚がない、わからないことには問題がある」と言われるのです。身体感覚がなくなっているために身体が発しているサインに気づかなくなると言うのです。

 海原さんはいま身体感覚が希薄になっている人が増えている気がすると言います。そしてその理由に「現代社会が自分の内側より外側に対して集中することが多い」ことを上げ、その原因にテレビやSNS、パソコン・スマホ操作を指摘されます。これって髙村さんがおっしゃることと全く同じではありませんか。

 海原さんは「身体に対する気づきは自分という存在そのものに対する気づき」であり、自分を保つことに必要なその気づきを得るためには「ほんの少しの時間、外からの刺激を断ち、自分が呼吸していることから始められる」と言われます。呼吸を意識する。これってまさに私たちの坐禅そのものではありませんか。

 余談ながら、前述の若者が食事を作ることに全く関心がないというのは間違いなく少年時にその体験がなかったからだと思います。改めて小さい時の体験が如何に大切かと思わざるを得ません。どうぞ皆さん、お孫さんひ孫さんと日常の掃除洗濯、そして調理を一緒にして下さい。それがお孫さんひ孫さんの生きる力になります。
   
  学ぶは真似ぶ。つまりは体験。

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