ある人生 №613

 ある人生

令和2年12月20日

 NHKラジオには幾つか長寿番組がありますね。皆さんすぐ思われるのは「ひるのいこい」ではないでしょうか。古関裕而さんが作曲されたテーマ曲を聴くと誰しも懐かしい田園風景を思い出されることでしょう。「ひるのいこい」は昭和27年に始まっていますからもう68年も続いていることになります。

 ところが、この「ひるのいこい」を凌ぐ長寿番組があります。毎週日曜午前85分から50分間放送されている「音楽の泉」です。この第一回放送は昭和24911日だそうですから今年で何と71年になります。毎週聞いておられない方でもテーマ曲、シューベルトの「楽興の時」を聴けば「あぁ」とお思いの方もお出ででしょう。

 実は表題の「ある人生」はこの「音楽の泉」を今年3月まで32年間担当された皆川達夫さんのことなのです。皆川さんは昭和63年に2代目の村田武雄さんから3代目を引き継がれました。2代目の村田武雄さんも29年という長い期間の解説をされましたがそれを凌ぐ長い年月解説と進行役を担当されたのでした。

 皆川さんの「音楽の泉」は今年329日が最後の放送でした。番組の終わりに皆川さんは「体調にやや不安を覚えるようになりました」と降板を告げられ、いつものように「ごきげんようさようなら」と終えられたのでした。その時それを聴いた誰しも皆川さんの体調が逼迫しているとは思わなかったに違いありません。

 ところが、何とそれから1ヵ月もしない419日に亡くなられたのです。92歳ということでした。訃報に信じられぬ思いがしたのは私ばかりではなかったと思います。しかし、私が次に思ったことは皆川さんは「音楽の泉」に全生涯をかけられたに違いないという思いでした。「音楽の泉」の解説のために己の全精力を注がれたのだと思いました。

 人の生き方は様々です。人それぞれです。しかしその人生に生涯を傾けるだけの仕事に出逢ってそれを貫徹することができたらそんな素晴らしい人生はありません。皆川さんの人生はまさにそれであったのでしょう。皆川さんは至福のうちに逝去されたに違いありません。敬服合掌申し上げます。


「逢う」

人生誰に逢うか。何に遇うか。

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