「フリルはよくない」 №149

平成24年7月17日

「フリルはよくない」

Sさんが「豚の死なない日」(ロバート・ニュートン・ペック著)という本を貸してくれました。この本、40年前1972年に出版された時には全米で話題になったと言いますが、私は全く知りませんでした。献辞に「父ヘイヴン・ペックに」とありますから、著者である息子ロバートと「寡黙で穏やかで豚を殺すのが仕事だった」父との生活の実録なのでしょう。

 作品に出てくるのは少年ロバートとその両親、隣人の牛飼いタナーさんらですが、話の根幹をなしているのはロバート一家が敬虔なシェーカー教徒だということです。シェーカー教はプロテスタントの一派、クェーカー教から生まれ、19世紀半ばにはニューヨークを皮切りに共同体18、信者六千人を数える大きな教団であったそうです。

 クェーカーもシェーカーも神秘体験によって身を震わせることからその名がついたと言われますが、シェーカー教徒は「手は仕事に、心は神に」の言葉通り、労働をもって神に仕えることを最高の喜びとし、同時に標題のように日常からフリル(ひだ飾り)、つまり余分なもの、を排して質素な生活に徹したと言います。

 話の中心は、ロバート少年が牛のお産を助けたお礼に隣人の牛飼いタナーさんから貰った子ブタ、ピンキーを育てる過程のロバートとピンキーの交流といえますが、そのピンキーさえ不妊症と判明した後は親子が涙ながら屠殺せざるを得なかったところにフリルを抱えられない一家の生活の厳しさに粛然とせざるを得ませんでした。

 ロバートが十三歳の時、豚の屠殺を仕事にしていた父が亡くなります。「豚の死なない日」という題名はその父の葬儀の日のことです。 この日からロバート少年は一家の柱として大人の仲間入りをしていくのですが、読み終わってふと日本も百年前は同じではなかったかと思いました。人間を生かしている神の存在を信じ、勤勉な労働に明け暮れして多くを望まず、感謝と満足を持って生きていた時代と人々があったことを思わずにはいられませんでした。

 いまの私たちはフリルだらけ。でも豊かさは感じているでしょうか。

「ないものねだりはしません」
~料理家・辰巳芳子~


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