我も逝かなむ
2月27日、亡くなった市川団十郎さんの葬儀が行われ、会葬御礼で団十郎さんの「色は空 空は色との 時なき世へ」という句が紹介されたということでした。葬儀を伝えるこの日の夕刻のニュースでも紹介されていましたからお聞きになった方も多いと思いますが、皆さんはこの団十郎さんの句をどのように受け取られたでしょうか。
この句、「色は空…」はむろん、般若心経の「色即是空 空即是色」を言っていると思いますが、私は聞いてすぐ、団十郎さんはまだこの句に言い足りぬ思いがあったのではないかという気がしました。この句は団十郎さんのパソコンに残されていたそうですが、そこに記したのは昨年とのこと。死を覚悟しながらも思い万感の時であったと思うのです。
その時、思い浮かんだのが、六代目尾上菊五郎さんの辞世「まだ足らぬ 踊り踊りて あの世まで」でした。桃屋の花ラッキョウが大好物で死の間際、それが食べたいと言われるので探しまわったものの見つけられず代わりのものを差し上げたら「これは桃屋のラッキョウじゃない」と一喝して後見向きもしなかったという方にふさわしい辞世と思います。
私は団十郎さんも同じ思いではなかったかと思います。まだまだ踊りたいという気持ちを胸に辞世を詠む団十郎さんのお気持ちは菊五郎さんと同じであったはずです。ですから、その心を敷衍させて頂くなら「色は空 空は色との 時なき世へ」「我も往かなむ 踊り踊りて」であっただろうと思われてなりません。
菊五郎さんにしても団十郎さんにしても、歌舞伎役者として心血を注いだ人生に終わりはなかったでありましょう。究めれば究めるほどさらにその奥を追究されただろうと思いますが、私はそれこそが天命を全うする人生だと思います。そして、これは私たちみんなに言えること。団十郎さんはそのお手本を示して下さったと思います。
もうひとつ、「時なき世」についてはいずれ改めて考えたいと思いますが、一切のものは空である、という「空」を時間の世界ではないと悟られたのが、この「時なき世」だと思います。私はこれが真実だと思います。
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