亡き人との“再会” №218

亡き人との“再会”
平成25年9月3日  
 ご覧になった方もあると思います。先達て(823日)NHKテレビで「亡き人との“再会”-被災地三度目の夏に-」という番組がありました。いま、東日本大震災の被災地では津波で大切な家族を失った人たちの中に、亡くなった人たちに再会するという不思議な体験をする人が数多くいると言います。番組はそれを伝えるものでした。

 番組では四人の体験が紹介されました。一つ目は握っていた手が離れ、押し寄せる波に沈んで行った82歳の母に今なお自責の念を消し得ない54歳の女性の体験。二つ目は津波から二週間後に遺体で発見された父の柩に入っていた白い花と全く同じ花が、遺体発見前のある日、自分の靴に入れられてあったという25歳の娘さんの話。

 三つ目はかわいい盛りの3歳の男の子を失った39歳の母の話。四つ目は生後僅か7日目と11ヵ月目の息子二人と妻を失った29歳の男性の体験でしたが、このうち三つは亡くなった人が目の前に現われるという体験です。波に沈んでいった母はすでに他界している御主人と一緒に鮮明な姿で現われたと言います。3歳の男の子は仏壇の中から母を見つめていたと言います。

 また妻と二人の子を失った男性は、夜中肩を叩かれて起きると、不思議な女の子に連れられた二人の息子が目の前に笑顔で現われたと言います。これら不思議な体験は何を物語るのでしょうか。自分の靴に入れられていた白い花を再び父の柩の中に見ることになった女性の体験はどう理解したらよいのでしょうか。

 私はこれらはすべて「死者は生きている」という証だと思います。死者というのは肉身を離れただけに過ぎません。死者が肉体による五官を持たない以上、生者との交流の手段は限られますが、死者は決してどこか遠いところにいるのではなく常に私たちの側にいることを表わしているのが、これら不思議な体験ではないでしょうか。

 番組の中で佐々木清志さんという岩手の医師の方が、「死者は体験者を温かく元気づけている存在です。体験者が動き出すきっかけになっており、そこに“死者の力”を感じます」と言われましたが、誠にその通りです。私たちの死者への一心の祈りが死者の力として返されるのです。一心の祈りだからこそです。
 
            いちめんに唐辛子あかき畑みちに 
         立てる(わらべ)のまなこ小さし
                            ~斎藤茂吉~

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