「幸せます」考 №219


「幸せます」考 
平成25 915 
 
 七年前、この山口県に来て関心を抱いたのが山口方言と山口弁でした。山口県の方言には古語に由来しているものが多いようですし、「~ちょる」言葉のように、語尾が拗音化することが多い山口弁には時代をタイムスリップしたような不思議な感覚を覚えてなりませんでした。「難波の葦は伊勢の浜荻」ではありませんが、所変われば品変わる、ですね。

 山口方言の中で特に感心したのが表題の「幸せます」です。注意していると、この言葉は大人はむろん、小学生も若い女性もごく自然に使っていること知りましたが、興味を抱いたのはその語源です。幸せを名詞とするなら、幸せますではなく幸せです、になるのでしょうが、「ます」になっているということは「しあわせ」が動詞ということになります。

 調べているうちに分かりました。物事をうまくやるとか物と物がきちんと合うようにするという意味の「為合(しあ)はす」と動詞がありますが、これならば「為合(しあ)はせます」という用法が成り立ちます。「為合(しあ)はす」が名詞化した「仕合せ→幸せ」は巡りあわせ、幸運という意味になり、この山口には「(しあわ)せる」という言葉もあるということですから語源はこれなのでしょう。

 この語源からすると、「幸せます」は丁寧語もしくは謙譲語と言えます。事実、この言葉を使う方の多くは「有難い」「嬉しく思う」という意味でお使いだと思います。文語的に言えば「そうして頂ければ幸いに存じます」ですね。ですから、この言葉の背景にはへりくだった優しさがあります。聴く人をほっとさせるのはその心ではないでしょうか。

 ところへ、神奈川のKさんが新聞の切り抜きを送ってくれました。防府市出身の田中さんという74歳の男性が朝日新聞の投書に「幸せます」という言葉に、親や奥さんがよく言ってくれた「行ってお帰り」と同じようなやさしさを感じると書いておいででした。「行ってお帰り」という言葉が人をやさしくする力を持っているように「幸せます」にもそれがあるのでしょう。

 この「幸せます」は、今では「幸せ」という意味により重点が置かれていると思いますが、それにつけても言葉の持つ力の大きさを思わざるを得ません。優しい言葉、思いやりのある言葉がどんなにかお互いを和ませ、勇気と希望をもたらすか知れません。改めて心したいと思います。


             愛語よく廻天の力あることを学すべきなり。
                             ~道元禅師~

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