「出生前検査」考 №236



「出生前検査」考
平成25年12月12日

 先月下旬、毎日新聞に「<新出生前診断>羊水検査後陽性53人中絶」という記事がありました。妊婦の血液から胎児の疾患の有無を判定する新型出生前診断の臨床研究で診断結果が陽性だった67人のうち、その後の羊水検査などで陽性が確定した少なくも54人のうち53人が中絶を選んでいたことが分かった、というものでした。

 先天的障害の一つに「ダウン症」があります。これは21番目の染色体が3本になっているために起因する障害です。普通2本である染色体が3本になっているものを「トリソミー」と言いますが、このトリソミーは13番、18番にも出現することがあり、今回の新型出生前診断はこの3疾患を対象にしたということでした。

 結果、陽性と分かった54人中53人、つまりほぼ全員が中絶をしたということには複雑な思いを抱かれる方が多いに違いありません。もちろん、中絶された方々は悩みに悩んでの決断であったと思います。中絶されたことを非難する気持ちはありません。しかし、これから出生前検査がさらに進歩し簡便になっていったら、という不安は拭いきれません。

 その最大の危惧は命の選別です。障害児を不善不良の人間として排除していく怖さです。この世をいわゆる健常者だけの世界にしていくことの恐ろしさです。不適応な人間の排除は、やがて障害者だけでなく弱者、高齢者にも及びましょう。さらには異なった考えを持つ人間も排除の対象になっていくのではないでしょうか。

 私が養護学校で障害児に学んだことは、障害児は自ら望んで障害者として生まれてきたということです。障害者として生きることを人生の目的にしてきたということです。障害児として生きるということは大修行です。命を人任せにする修行は崇高な魂の持主でなければ成し得ません。障害を持って生まれるということはそういうことなのです。

 私たち、いわゆる健常者は障害者に学ぶことがなければ益々傲慢になり貪欲になっていくのではないでしょうか。人間の世界には障害者も普通人も若者も年寄りも男も女もいます。みんないなければなりません。それが人間の世界なのです。共に助け合い学び合う。それが人間の世界なのです。
 

      鈴と、小鳥と、それから私、
        みんなちがって、みんないい。
               ~金子みすゞ~

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