「戦ふ兵隊」 №326

「戦ふ兵隊」 №326
平成27年 6月16日


「戦ふ兵隊」
 
 鎌倉・映画を観る会の30周年記念上映、「戦ふ兵隊」を観ました。亀井文夫監督のこの映画は1939(昭和14)年、戦意高揚を目的に作られましたが、試写を見た軍の校閲者が目的に沿わないと公開を禁止したいわくつきの映画です。しかし、それから36年後の昭和50年になって没収されたフィルムが発見されました。文字通り幻の名画なのです。
 
 この映画が作られた1938,9年当時は日中戦争が泥沼化していく時でした。日本は3810月に広東、武漢を占領しましたが、それ以後、軍事力は限界に達し、ゲリラ戦で抗日を続ける中国共産党と持久戦を余儀なくされていったのです。その現地で亀井監督が見たものは流浪する中国の民、そして戦勝の喜びもなく疲れ果てて休む日本兵でした。
 
 家を焼かれて茫然と佇む中国人の家族、ただ一時の眠りを求めて身動き一つしない石像のような兵隊。崩れるように倒れて死んでいく捨てられた病気の馬。映し出されるその一つひとつが悲惨な戦争の事実と真実です。その事実と真実を正面から伝えようとしたのがドキュメンタリー作家の草分けと言われる亀井監督の真骨頂なのでしょう。

 後年、亀井さんは「馬は古木がくずれおちるように倒れ、荒々しい息づかいを最後に死んでゆく。ぼくにとってはもはや、人間と馬との区別などは全くなくなる。ただそこにあるのは戦争と生命の悲痛な関係の実証だけだ」と言われていますが、人間も馬もない、というこの言葉ほど戦争の悲惨を語るものはないと思います。

 ちょうど同じ頃と思います。私の父も中国に出征し、亀井さんと同じように、徴用された馬が斃れていくさまを目にし、帰ってから「無言の戦士」という本を著しました。その話を父からじかに聴いているだけに馬が倒れて死んでいくさまには目を覆いたくなるような切なさを感じてなりませんでした。

 鎌倉・映画を観る会が30周年の記念上映に敢えて、この「戦ふ兵隊」を選ばれたことに日本のいまを思わない訳にはいきません。日本はいまこの「戦ふ兵隊」を再現させてしまうような時にあるのではないでしょうか。日本がこれからどうなるのか。それは私たち一人ひとりの責任なのです。

 
       亀井さんは昭和16年、左翼映画運動の
       首謀者として逮捕・投獄されました。
       あなたにとって平和とは何ですか。










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