チョウの解脱 №340


チョウの解脱

平成27年9月17日
 
 この夏とくに8月、私はチョウを見ることが多かった気がします。一息つきに外に出ると必ずのようにチョウが飛んでいるのです。それも時には私を待っていたかのごとく、どこからともなくフーッと現われるのです。人に言わせれば、単なる気のせい以外の何ものでもありませんが、自分とすれば不思議なことと思えるほどでした。

 そういえば、八月法要のご案内ハガキに「炎天に 軽やかに飛ぶ あげは蝶 飛んでいるのは ほとけの世界」という拙吟を披露申し上げましたが、真夏の暑さの中を飛ぶチョウを見るたびにチョウはこの世ではなくあの世を飛んでいるのではないかという気がするのです。一つには亡き人への思いもあってか、この夏のチョウは特別に感じられました。

 これはつい先達てのことです。新下関駅で電車を待っている時、ホームのガラス壁に阻まれてもがいているクロアゲハがいたのです。チョウには出口を見つける能力がないのか左右に動いて虚しくガラスに当たるばかり、一向に脱出できません。反対側に飛べばいいのですが、それが出来ないのです。手も届かずはがゆく見るばかりでした。

 10分あまりその繰り返しだったでしょうか。すると、さすがにチョウも飛び疲れたのか、手の届く高さまで沈んできましたので急いで捕まえて外に放すことが出来ました。その瞬間、チョウが「ヤッター」と思ったかどうかは分かりませんが、苦難から解放されたこと、観音経に言われている「解脱」をしたことは事実でしょう。

 観音経に言う観音様の救いとは解脱です。火難、水難を初め、羅刹(悪鬼)難、刀杖難、枷鎖(かせとくさり)難、怨賊難等の七難を解脱せしめることが観音様の救いなのです。普通、解脱は絶対自由の境地に達することと解されますが、その本来の意味は「解放」なのです。束縛から抜け出ること、英語の「release」です。

 もがき続けたチョウを見て思いました。私もそのチョウと同じではないかと。日々の悩み、老病の不安、死への恐れ。私たちは生老病死に捕らわれています。生きていれば仕事や人間関係、衣食住など様々なことが歓喜にも苦悩にもなります。歓喜も苦悩も束縛。その束縛からどうすれば解脱できるでしょうか。南無観世音菩薩。 
 

     うつりきてお彼岸花のはなざかり
            ~種田山頭火~

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