一枚の写真 №338

一枚の写真 №338
平成27年 9月10日


一枚の写真
 
 一枚の写真があります。私の永平寺(あん)()中の写真です。当時、私がいた衆寮(しゅりょう)の修行僧、威儀を正した27人が、赤いちゃんちゃんこ姿の私を真ん中に三列になって映っています。平成15114日。その日は私の誕生日。還暦を迎えた私の記念写真です。一冊のアルバムも持っていない自分がこの写真だけは生涯の宝物、と大事にしている写真です。
 
 私が永平寺に上山したのは今から12年前、60歳を目前にした秋です。60歳を越すと上山が認められなくなるかも知れないという噂を聞いて駆け込んだのでした。その後、噂は嘘と分かりましたが、お蔭で私は還暦を永平寺で迎えることになりました。しかし、当時の私は自分の還暦を考える余裕など全くありませんでした。一日一日を過ごすだけで精一杯だったのです。
 
 その日、薬石後のこと、同じ秋安居の司龍さんが「洋仙さん、お正月の写真うまくとれなかったから今日また撮り直すんだって」と言うのを聞いて「撮り直しなんかしなくていいよねー」と答えるほど、私は翌日の仕事のことで頭がいっぱいでした。写真の撮り直しが自分の還暦をお祝いしてくれるサプライズとは思ってもいなかったのです。
 
 大広間に行くと、戸惑うまま私はちゃんちゃんこを着せられました。そして中央に招かれると同時に「洋仙さん、還暦おめでとう」と皆さんが口々に言ってくれるではありませんか。事の次第を知った私は驚きで声を忘れました。まさか自分が永平寺で同安居の皆さんに還暦のお祝いをして頂けるなんて思ってもいなかったのです。
 
 私が永平寺で過ごしたのは僅か一年です。しかし、その一年が三年も四年もの長い時間に思えるのは、それほどに永平寺の生活が、それまでの日常とは全く異なったものだったからでありましょう。それはまさに戦場、一瞬の気の緩みも許されない緊張の日々でした。自分のけちらし(失敗)が自分だけでは済まされない世界なのです。
 
 私は私を助けてくれた若い修行僧の皆さんに心から感謝しています。親子ほど年の離れた自分を温かく親身に指導応援をして下さった同安居の皆さんに本当に感謝しています。その皆さんの援助がなければ、私は修行が勤まらなかったでありましょう。そのお礼は尽きることがありません。写真を見る度に私はそのことを思います。



                   

             感謝して止まぬ人ある人生は
               ただ有難くなむかんぜおん
















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