「出生前診断」是非再考 №636

 「出生前診断」是非再考

 令和3年6月11日

  前号で出生前診断の是非を考えましたが紙数のこともあって言い足りない思いでいた折りしも毎日新聞(2021,6,4)に「新型出生前診断の課題」として識者3人の意見が載せられていました。それらの意見に共感するところが大きかっただけに一層「出生前診断」に疑問を思わざるを得ません。是非について再考したいと思います。

 上の識者、関沢明彦(昭和大学医学部教授)、玉井 浩(日本ダウン症協会理事・大阪医科大研究所長)、斎藤加代子(東京女子医大特任教授)の3氏に共通する第一の指摘は出生前診断によって優生思想が助長されるのではないかという懸念です。玉井さんは検査が一斉化すれば障害者差別をさらに強化することになると言います。

 いまこの出生前診断を受けて陽性となった方の9割が中絶を選んでいることは前号でも申し上げましたが、これが常態化すれば障害者排除という優生思想につながっていくことは目に見えています。玉井さんはすでにダウン症児を育てる母親が検査を受けなかったことを責められたりすることがあると言っていますがそれは優生思想に外なりません。

 3氏共通のもう一つの指摘は検査の前後に遺伝カウンセリングが十分に行われていないことです。無認定施設でその傾向が強いにも関わらず規制がないために無認定施設は減るどころか急増していると言います。今後さらに様々な出生前診断が導入されれば検査料目当ての施設が増えて障害者排除の優生思想が助長されていくことは間違いありません。

 もう一つ、3氏が心配していることは出生前診断が社会の多様性を失わせかねないということです。同感です。人間社会は老若男女もとより強者弱者障害者天才など様々な人がいて人間社会なのです。人間は誰しも修行者です。分けて障害者は特別な意味を持った修行者です。その修行者を排除することがあってはならないのです。

   今回の私の結論。出生前診断は凍結すべきです。国は改めて出生前診断の是非から検討すべきです。その上でなお実施するのであればその前に障害児出産前後の助言と支援を今以上に充実させその情報を十分に提供する体制づくりを優先させるべきです。それなくしての出生前診断は国を誤った方向に導くだけと思います。


  個々人の考えが社会のコンセンサスになれば

 (障害者差別への)さらなる同調圧力を生む

               <玉井 浩>

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