延命治療 №143

平成24年6月1日

延命治療



 先日(5月17日)、「人生の最期どう迎える・岐路に立つ延命治療」という番組(NHKクローズアップ現代)がありました。いま、口から食べ物を取れなくなった人の延命治療として胃に直接水分や栄養を流入させる「胃ろう(瘻)」という延命治療が増えていると言われますが、これによって生じる問題を考える番組でした。

 番組では二つの例が紹介されていました。一例は孫の男性が介護に当たっているという93歳の女性でした。女性はこの治療を7年間受けていますが、認知症のために4年前からは孫の認識も出来ないと言います。孫にとって一番の悩みは「彼女の魂がどこにあるのか」だと言います。その言葉を覆っているのは空しさのように思えました。

 もう一例はすでに12年間この治療を続けている男性です。男性の奥さんはそれ以前6年間、24時間介護をしてきたそうですが、この胃ろうになってから今度は入院費のために朝7時から働いているのだそうです。寝た切りの男性の手足は硬直してしまい、それを見るにつけ奥さんは治療が夫を苦しめているのではないかと悩んで「心が崩れた」と言います。

 この二つの例が提起しているのは、延命治療を受けている本人と家族の心の問題、そしてもう一つは治療費の問題です。わが国で胃ろうを受けている人は40万人に及ぶと言いますが、アンケートでは胃ろうに対して「分からない」「つけなければよかった」が半数におよび、治療をやめるかどうかという問いにはやはり半数が「やめる」と答えていると言います。

 番組が提起したのは、患者にとって終末期の最善の医療とは何かということでしたが、それは裏返して言えば、死とは何か、私たちはどのように死を迎えればよいのか、ということに帰着するのではないでしょうか。

 アンケートはどうであれ、私は胃ろうを否定する気はありませんが、肉体の生存はあっても生活のない生存が最善の医療であるかどうかには疑問を拭い切れません。 死が各人各様のものであると同様、延命治療もまた各人のものであるのでしょうが、考えずにすむ問題でもありませんね。

死を避けるのではなく、うまく死ぬことを考えながら最期を送ることが大事です.
『あなたは笑って大往生できますか』


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