「橋を掛けておいて下さい」 №209

橋を掛けておいて下さい」 №209
平成25年 7月14日

              「橋を掛けておいて下さい」      

  お墓が二つ並んでいます。一つの墓には「待っているよ」とあります。そして、もう一つの墓には「ハイ、来ましたよ」とあります。どこの国かは忘れましたが、夫婦の墓の話です。先に逝った夫が後から来る妻を待ち、妻はその夫に応えて「ハイ、来ましたよ」とまた仲よく墓が並んでいるのです。実にほのぼのではありませんか。
 
 ところがつい先日、これと同じ話をSさんから伺いました。Sさんは時折、寺にお参りになって楽しい話をしてくれます。決して平坦な人生を過ごされて来たSさんではありませんが、持ち前のさっぱりしたご性格で困難を乗り切って来られたのでしょう。でも、伺った話はさっぱりしたSさんだからこそかも知れません。
 
  Sさんは死を怖いとは思わないと言います。それでよくご主人と「そろそろお迎えがあってもいいんだけど、まだ来ないというのは仕事が残っているんでしょうかねぇ」と話すのだそうです。そういう話が夫婦の間で日常的に出来るということが、まずもって素晴らしいと思いますが、Sさん夫婦はそれだけで終わらないのです。
 
  Sさんはご主人にこう言うのだそうです。「あなたの逝くのが、私の後になると困るでしょうから、私があなたを、頑張ってくれて有難うって送ってあげます。だから、私が逝ったらちゃんとお迎えして下さい。私は泳ぎが苦手だから三途の川に橋を掛けておいて下さいね。もし橋が無理だったら浅いところを探しておいてね」と。
 
 この話を伺って思わず拍手でした。まさに冒頭の夫婦のお墓の話、いやそれ以上ではないでしょうか。これはもう達観です。死が怖いどころか、その訪れを喜んで待っていると言えましょう。「三途の川に橋を掛けておいて下さい。それが無理なら浅瀬を探しておいてね」というSさんの無邪気なお願いにご夫婦の愛の深さを感じました。
 
  毎度のことですが人はみな必ず死にます。しかし、その死をどう受け止めるかは各人各様です。徒に恐れてもなりませんが、と言ってSさんご夫妻のように達観することもなかなか難しいこと。私たちに出来ることはせめて一生懸命に生きることでしょうか。



   

           お前百まで わしゃ九十九まで 
           ともに白髪の 生えるまで
                ~隠岐磯節~










 

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