小さいおうち №258

小さいおうち №258
平成26年4月17日


小さいおうち 

 先達て、標記の映画「小さいおうち」を観ました。監督人生50年、数々の名作を世に送り出してきた山田洋次さんが、監督作82本目にして全く新しい世界へ踏み出したというこの映画。家族の絆を描き続けてきた山田監督が、この映画で初めて“家族の秘密”に迫り、人間の心の奥底までも描こうとしたという作品です。
 
 その言葉通り、確かに見ごたえのある作品でした。平井時子を演じた松たか子さん、平井家の女中役、布宮タキを演じた黒木 華さん、タキの晩年を演じた倍賞千恵子さん、時子の恋の相手、板倉正治役をした吉岡秀隆さん、晩年のタキから話を聴きだす役を務めた妻夫木聡さんら、いずれも観る者を思わず映画の世界に引き込む好演技でした。
 
 話の流れは坂の上の小さいおうちの恋愛事件がメインであり、その秘密を知ってしまった女中タキの悩み。時子の心に背いて板倉に手紙を渡さなかったことがタキには一生の罪意識になります。人誰しもが思い当たる心の懊悩です。その懊悩はむろん時子も同じでしょう。不倫を承知でなおそれを抑えきれぬ恋の思いが激しい葛藤になったことは言うまでもありません。
 
 観ている者がその場にいるような不安さえ感じさせる点で、この映画はまさに狙い通りの作品になっていると思いました。しかし、その一方で私は、この映画にも昨年観た妹尾河童さん原作の「少年H」や木下惠介さんの生誕100年を記念して作られた「はじまりのみち」に通底する、いまの時代への警鐘を感じてなりませんでした。
 
 山田さんはそのことを「戦前から敗戦の時代を描きつつ、さらにはその先に、果たしていまの日本がどこへ向かっていくのか、ということも見えてくる作品にしたい」と言っておられますし、この「小さいおうち」の原作者である作家、中島京子さんも「昭和モダンが今の私たちの生活のようで想像しやすいけれど、それを数年後に根こそぎ失ってしまう怖さ。きな臭くなっている今、映画を通して考えさせられるのではないでしょうか」と言われています。
 
 実は山田さんがこの映画を通じて最も訴えたかったことが上のことではないでしょうか。一見平和なこの日本が、そして私たちの“小さいおうち”が、あっという間にまた時代の波、戦禍に巻き込まれるかも知れない。今の日本にその不安があることを、です。
    
 


     もう一度、この言葉。
     平和をあなたにもたらすことが       
     できるのは、あなただけだ。 ~エマソン~








 

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