植物の色を頂く №277

平成26年 8月 1日
植物の色を頂く №277 

 先達て、染織家志村ふくみさんの日常を伝える番組がありました。NHK「日曜美術館」の「京の“いろ”ごよみ」です。志村さんは今年89歳だそうですが、そのお姿は透き通った美しさに満ちてお歳を感じさせるものは微塵もありません。瑞々しい感性はどこから来るのか。志村さんが淡々と話されることにその秘密を知る思いがしました。
 
 番組の中でカラスノエンドウを染色する場面がありました。カラスノエンドウを摘み取って煮出し、その煮液に糸を浸して色染めするのです。ご存知のようにカラスノエンドウは春の草です。その草が糸に表わしたのは誠にきれいなうすみどりでした。志村さんはそれを「この季節の旬の色」と言われます。
 
 志村さんはそのことを次のようにおっしゃっています。「春に向けて花を咲かせようと桜や梅が身体中にたくわえている色を花の咲く前に炊きだして頂く、それは匂い立つほどの生命力を宿す聖なる色です」と。また、おっしゃいます。「自然を敬い植物の持つ色を復活させたい」と。私はこの言葉に染織家、志村ふくみさんの真骨頂があると思いました。
 
 志村さんは、季節の草の旬の色を頂くというのは薬草の力を頂くことだと言われます。七草粥がそうであるように、古代から春の野に若菜を摘んで食するのは若菜の力を頂くことです。そして、志村さんがおっしゃる“薬草の力”もそれなのです。草の力の象徴である旬の色で染めた衣装を身につけることが草の力を頂くということなのです。


 
 志村さんは草の色で糸を染めるというのは「祈り」だと言われました。私はこの言葉に感銘でした。志村さんが季節の草木で糸を染めるのは祈りなのでした。「生命力を宿す聖なる色」とおっしゃるのも「自然を敬い」と言われるのも祈りがあるからこそです。志村さんは草で色を染めているのではなく祈りを染めているのでした。
 
 番組の中の志村さんが透き通るような美しさをお持ちの訳が分かりました。志村さんは祈りの人なのです。何十年もの間、草木と語らい、染織という仕事を祈りとして生きて来られたことが志村ふくみさんの透き通る美しさになったのだと思います。お姿を見ていて改めて祈りの大切さを思いました。


 


        祈りとは宇宙の真理に、天地自然に
        同化すること。







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