八重子のハミング №411

八重子のハミング
平成28年12月18日

 先達て久しぶりに映画を観ました。それが表題の「八重子のハミング」です。監督はご存知、山口県出身の佐々部 清さん、主人公夫婦の夫、石崎誠吾役を(ます) 毅さん、同じく妻石崎八重子役を高橋洋子さんが好演、ロケ地のほとんどが萩市内および下関市内という山口の魅力いっぱいの作品です。それだけに親しみの湧く映画でありました。

 しかし、この映画は娯楽映画でも観光映画でもありません。すでに皆さまご承知の通り、この映画は認知症という私たちにとって極めて切実かつ重い問題をテーマにした映画です。それも創作ではなく萩市の教育長であった(みなみ) 信孝さん夫妻の実話。若年認知症を患った妻が亡くなるまで12年間の介護の日々を辿った映画です。

 今から7年前の2009年、この「八重子のハミング」を映画化しようと決意した佐々部さんは、その実現のためにあちこちの映画会社やテレビ局の映画部にお願いに回ったそうです。この時、佐々部さんは「この国は将来こういった老老介護の問題が大きくなる。何を撮ったかではなく、何のために撮るのか」だと訴えたそうです。

 しかし、それに応じてくれるプロデューサ―は遂に現れずじまいだったそうです。そんな中での出発は、監督自身「命がけの船出」と言う通りであったに違いありません。映画を観た私は強い感銘を受けた一方、製作過程の監督はじめスタッフの方々の苦労が、映画が提起する問題の深刻さとこの国のありようを象徴していると思われてなりませんでした。

 我が国は長寿化の半面、その長寿化に伴う多くの問題が露わになってきました。このたよりでも何度も申し上げていることですが、長寿化と同時に漂流する老人、そしてこの映画が提起した認知症、老老介護、介護離職などが深刻化しています。最近は老老介護の二人が共に認知症化する例が多くなっていると言われます。

 映画「八重子のハミング」が提起した問題は、監督自身が思った通り、今後ますます私たちの切実な問題になるでありましょう。誰も避けられないこの問題、国の対策が大切なことは言うまでもありませんが、同時に私たちが近隣の人たちと助け合う共助のシステムを作っていく必要性が思われてなりません。


   幼な子に かえりし妻の まなざしは
   想い出連れて 我にそそげり
          ~陽 信孝~

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