「延命無用」
令和2年6月8日
NHKの料理番組「きょうの料理」をご覧下さっている方ならご存知と思います。料理研究家、鈴木登紀子さん、愛称「ばぁば」。御年94歳。ながら今なお入れ歯なし補聴器なしの現役。今年62年目を迎える「きょうの料理」は出演40年以上になりますし、自宅での料理教室は50年を越えるというびっくり元気のお方です。
鈴木登紀子さんは料理の基本を幼少時にお母さんの千代さんに学んだそうです。お母さんが「料理はつくる人も楽しむ。それを食べる人も楽しむ」と教えてくれたことが料理の原点になったと言います。料理教室ではいつも「やさしい心でやさしいお味に心がけて下さい」と言われているそうですがつくる人食べる人が楽しむというのがそのやさしさでありましょう。
ばぁばはこうも言っています。「料理をするときはおいしくね。家族が喜ぶものをと思うのが普通ですよね。自分がちょっと大変であっても喜ぶ顔とか成長を見るとか。食べることは生きることと思っておりますね」と。
そしてまた「季節のおいしいものをいただくとやさしい気持ちになれますよね。でも旬は短いの。短いからこそ次の旬を待つという楽しみもあるわよね」とも言われます。これらの言葉を聴くと道元禅師の教えと同じだと思います。道元禅師は典座(料理人)の心構えに喜心(喜びの心)、老心(父母の心)、大心(大山大海のような心)を言われましたが、ばぁばが言われることはこの三心と同じではないでしょうか。
おっとっと。肝心のことが後回しになりました。表題の「延命無用」はお母さん千代さんの言葉だそうです。「延命無用 母より」と書かれた紙を鈴木登紀子さんは宝物として持っているのだそうです。意味するところは申し上げるまでもありませんね。ご自分の最期に延命処置をしないよう登紀子さんに託されたのでありましょう。
実は鈴木登紀子さんは80代後半立て続けに大腸がん肝臓がん心筋梗塞を患ったのだそうです。どれも完治はされていないそうですが「あらっと思っただけですよ。だって向こうからやってくるからどうにもならないのよ」と言います。その潔さ。ばぁばもお母さんの「延命無用」を生きておいでと敬服しかありません。
「病気ならそれなりにしなきゃと思いますよ。
することいっぱいあるから。」
<鈴木登紀子>
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