寒中萌春 №718

 寒中萌春

令和5年2月18日

立春が過ぎて間もなく雨水になりますが、今日の話は寒中のことです。今年の冬は近年稀なほど強い寒波がやってきて寒かったですね。皆さん無事にお過ごし下さいましたでしょうか。私は朝の坐禅と朝課の後、去年おととしは殆どせずに済んだ朝風呂、小原庄助さんにならざるを得ませんでした。やはり寒い冬だったと思います。

 その寒中です。師匠に手紙を出す必要があって出だしの時候の言葉を考えていて、ふと「寒中萌春」という言葉を思いついたのです。その意味は文字通り「寒中に春を萌す」ということです。ん?とお思いの方もおありでしょうが。実は一年で一番寒い寒中であっても植物はすでに春の準備をしていることを言いたかったのです。

 そのことに関連して私が思うのは冬至前後の日の出日の入りの時刻です。冬至は一年のうちで昼が最も短く夜が最も長い日ですね。では冬至は一年で日の出が最も遅く日の入りが最も早い日かと言うとそうではないのです。実は日の入りは冬至前すでに遅くなっており、日の出は逆に1月半ばにならないと早くはならないのです。不思議ではありませんか。

 これで分かることは天体の動きも休むことなく変化しつつあるということです。それは植物についても同じです。寒中に植物は寒さに動かないままかと言えば違います。寒中にあっても花咲く春のために変化を続けているのです。目を凝らしてみればそれら植物の営々たる努力を目の当りにすることができるでありましょう。

 寒中であってもサクラはそのつぼみを僅かずつながら膨らませています。鉢植えのボケはつぼみにうっすらと赤みをつけました。びっくりしたのはシンビジュームです。何と気がつかないうちに花芽をつけた茎が20㎝にもなっていました。気温がどんなに低くても植物はそれに負けてはいません。私たちはそこに春の萌しを見ることができるのです。



 私は上のことに人の世を重ねてみる思いがします。私たちに大切なことは倦まず弛まずです。人生は順風満帆ばかりではありません。寒い北風にも負けず投げ出さずです。そう、宮沢賢治さんの詩の通り「雨ニモマケズ 風ニモマケズ 雪ニモ夏ノ暑サニモマケヌ」です。そこに人生の春が来るのではないでしょうか。

「雪の深さに埋もれて耐えて麦は芽を出す春を待つ

 生きる試練に身をさらすとも意地をつらぬく人になれ」

                  <人生一路>

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