「シベリアシリーズ」を観る №551

「シベリアシリーズ」を観る
令和元年9月9日

先月18日まで山口県立美術館で開かれていた香月泰男さんの「シベリアシリーズ」を観ました。「シベリアシリーズ」とは香月さんが第二次世界大戦で応召した大陸従軍期からシベリア抑留まで4年に渡る自らの戦争・虜囚体験を描いた57点の作品です。香月さんはこの57点の絵を復員した1947年から亡くなる1974まで27年間描き続けたのです。

これまで私はこの「シベリアシリーズ」をテレビなどで断片的に見たことはありますが57点全部を一堂に観るのは初めて。正直圧倒されました。シベリア抑留とは飢えと寒さと劣悪な環境での過酷な強制労働でした。抑留された56万人以上の軍人軍属官吏のうち7万人が死亡したと推定されていますが実際にはもっと多かったに違いありません。

 香月さんは幸運にも何度夢に見たことかという故郷三隅に帰ることできました。それによって私たちはシベリア抑留の実態を香月さんの絵を通して知ることができました。シベリア抑留が如何に非人道的な過酷な労働であったかを知ることができるのはつらく悲しい思い出に鞭打って絵を残して下さった画家香月泰男さんのおかげです。

 絵に「雪」という一枚があります。その絵の自筆解説文に香月さんはこう書かれています。「セーヤの収容所では毛布が柩のかわりであった。死者が出るとそれを毛布にくるんで通夜をした。激しい飢えの果てに死んだ者へコーリャンの握り飯を供えるのがせめての慰めであったがそれも夜中に盗まれる始末であった」

 そして香月さんはさらにこう書かれています。「凍てつく雪の夜、軍隊毛布に包まれた戦友の魂は仲間に別離を告げながら故郷の空へ飛び去る。そして後に残った者には先も知れぬ苦しみが続く。いっそ霊魂と化して帰国したい。現身の苦悩から解放された死者をどれほど羨ましく思ったことだろう」と。

 飢えと寒さのうち死んだ戦友を羨ましいとまで思う抑留生活の厳しさの一端がそこにあります。私たちがこの「シベリアシリーズ」から学ぶべきことはシベリア抑留という過酷な歴史があったという事実。そしてこのよう歴史を再び繰り返してはならないという平和への決意でありましょう。瞑目合掌。
 
私は今自分の生まれ育った山口県の三隅町に住んでいる。
ここで死にたい。ここの土になりたい。 
             <香月泰男・私の地球>

0 件のコメント:

コメントを投稿