お話し二つ №89

平成23年6月6日

お話し二つ

 先日ある方からお人形のお(しょう)()きを依頼されました。お精抜き(正しくは「撥遣(はっけん)」と言います)というのはお人形等から魂を抜いて(くう)に返すことですね。その方のお母さんが持っておられた沢山のお人形をゴミとして出すには忍びずというのです。段ボール箱二つもありましたから儀式後出来るものはすぐにお焚きあげすることにしました。

 そのお人形の中に大内人形らしき男雛と女雛がありました。飾られていた時は当然二つ並んでいたのだろうとお焚きあげの時その二つを向い合わせにしたのです。火を入れて何気なく人形を見ていると火はまず女雛に移り程なく女雛は全身火に包まれました。男雛はじっとその様を見ているようでしたが、やがて男雛にも火が移り同じように全身が炎と化しました。次の瞬間のことです。その男雛は炎の体のまま女雛に覆いかぶさるように倒れたのでした。

 お話の二つ目は明くる日のことです。あるご夫妻が長年住んできた家を離れてマンション住まいをされることになり、私がその新しい住まいをお訪ねしたのです。実を申しますとそのマンションというのはケア付きの高齢者向けマンションですので、趣味の囲碁や旅行で元気いっぱいの奥さんからすれば、いずれはと思っても正直のところまだあまり気が進みません。ご主人の希望に仕方なく、という思いであったのです。

 ところが、マンションでの用事が済んであるお店でお昼を頂いている時、ご主人がマンション住まいを決意した気持ちを「今の私は小娘の力もないから・・」と言われたのです。ご主人は先年軽い脳梗塞をされ手足に僅かに後遺症をお持ちなのですが、万一奥様大変の時、そんな自分が奥様に何もしてやれないという思いがその住宅を希望した理由とおっしゃったのです

 
 ご主人の気持ちを聴いて奥様がどう思われたかは申し上げるまでもありません。前日の人形のことがありましたから私もこのご主人の言葉に深い感銘を覚えました。恐らくその方も長年住み慣れた家の方がよかったに違いありません。それを振り切って奥様がもしもの時を考えて決断されたことを伺って自分は周囲の人に対してこんな優しい気持ちで接して来ただろうかと深く反省させられたことでした。
 

  この前の坂村真民さん言葉また言うよ。
 「二度とない人生だから まず一番身近な人たちに
  できるだけのことをしよう」

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