ネギ坊主 №112

平成23年9月30日

ネギ坊主

 7月と8月、神奈川県の友人から絵葉書の便りを二通貰いました。その絵葉書は震災の被災者が描いたものです。同じ作者によるものでした。二枚ともネギ坊主が描かれています。津波で何もなくなった場所にふと目をやると、そこに力強く命をつなぎとめていたネギ坊主があって、それに感動した作者が描いた絵ということです。

その絵はプロの絵という感じではありません。むしろ稚拙と言ってよい絵と思います。しかし、作者の思いが直に伝わってくる絵です。一通目には空色の背景にネギ坊主が三本描かれています。生まれたばかりの包葉がそのしなやかさを感じさせています。2011.4.19Hiromi.Tと署名があり、「生かされていきる よろこびに感謝」という言葉が書かれています。

419日といえば、震災・大津波からまだ一カ月余り。瓦礫の撤去もままならぬ時であったでしょうが、この作者が目にしたのは何もなくなった土地に命をつなぎとめたネギ坊主でした。作者はそのネギの健気さに感動を覚えたに違いありません。九死に一生を得たもの同士の共感であったかも知れません。生かされていきるよろこび、という言葉にそれを思います。

もう一通は日付け529日。黒い背景の中に花火のように花を開いた大小のネギ坊主が五本描かれ、「亡き人の 無念のほどは はからねど 我らはいつも 共にありけり」という歌が添えられています。大津波から二ヶ月半、私はこの絵と歌には作者の悲しみを覚えてなりません。津波で亡くなった人への哀惜と無念の思いを感じざるを得ません。

再び会うことが叶わぬ人。取り戻すことのできない幸せな生活。日がたてばたつほど人は失ったものを思う悲しみが募るのではないでしょうか。助かった人たちはなお一層、癒されることのない悲しみと苦しみの時を過ごされているに違いありません。それを思うと被災された方々が只々早く元気を取り戻して頂きたいと願うばかりです。

 寺の彼岸花が咲き始めました。絵葉書の作者が一茎の野菜の花にも感動を覚えたように、人は季節の花に生きている喜びを感じるのでありましょう。 秋の日差しの中で真っ赤に咲いている彼岸花に今年は私も特別の思いを感じてなりません。

     彼岸花 今年も咲きて 思ふこと
    命なりけり この一年(ひととせ)

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